訪問看護事業所向け対応ガイド

目次

0.前文

0−1.本ガイドの位置付け

  • すでに各地域で陽性者が出始めており、流行の兆しがあるなかで現場ニーズとしてどのように対応をすべきか、ある程度の共通した認識や現場管理職・訪問看護師が必要な対処を最低限行えること。
  • あくまで厚生労働省や業界団体からの具体的な対応指針を待つまでの間、自分たち自身の臨床上の参考資料になること。
  • 感染ゼロを目指しながらも、感染が起こった場合にクラスターを発生させない指針となること。
  • 各施設や各地域において詳細な状況が異なるであろうため、適切にアレンジしていただけると良いこと。
  • 本情報はあくまでも有志が集めたものであり、官公庁・自治体が発信する情報を追えていない可能性がある。したがって最新の情報や地域の情報については各事業所で最終的に確認をすること。

0−2.前提

  • 非流行期地域もやがては流行期に変わる、またその逆もある。周囲の状況を察知し、臨機応変な対応が必要。(詳しくは地域における流行期の考え方を参照。)
  • どこまでのPPE(Personal Protective Equipment=マスク、ガウン、手袋、フェイスシールドなどの個人防護具)を用いるかについても資源との兼ね合いもあり相対的に考慮すべし。マンパワーやPPE資源の不足により訪問対応範囲や防御の完全性を段階的に下げるなど柔軟に対応しなくてはならない可能性有。
  • このガイド案は、周囲からのフィードバックを得ながら常にアップデートする、変更を加えた部分については、変更理由(例えば、PPEのリソース不足のため次善策として、や、周囲の流行状況が逼迫してきたため)など、わかるようにし、後戻りできたり、地域の実情に応じて修正使用が可能。

0−3.用語の定義

濃厚接触

  • 接触時期は発症2日前を範囲として
  • (陽性が確定した)患者との距離は1メートル以下かつ、マスクなどの標準予防策なしで15分以上の接触をした

出典:国立感染症研究所「新型コロナウイルス感染症患者に対する積極的疫学調査実施要領」

感染疑い

  • 上記の濃厚接触が14日以内にあり、風邪の症状や 37.5 度以上の発熱が 4日以上続く方(解熱剤を飲み続けなければならない方も同様)
  • 強いだるさ(倦怠感)や息苦しさ(呼吸困難)がある方(ただし以下のような方は2日程度続く場合)
    • 高齢者
    • 糖尿病、心不全、呼吸器疾患(COPD等)の基礎疾患がある方や透析を受けている方 ・ 免疫抑制剤や抗がん剤等を用いている方

出典: 一般社団法人日本環境感染学会「医療機関における新型コロナウイルス感染症への対応ガイド 第 2 版改訂版(ver.2.1)」

1.訪問にあたるスタッフの基本的態度

  • 周囲すべての人間(自身も含め)が感染リスクがあるつもりで標準予防策を行う。
  • 3密(密閉、密集、密接)の場に出かけない。自分が感染することは地域の医療資源が減ることと同義。

1−1.症状のない方への訪問

  • 症候のない、普段と変わりない在宅療養者の訪問看護であれば、サージカルマスクと、訪問時や訪問前後の手指衛生が中心となり、場合によっては使い捨てエプロン(使い捨てでないと駄目)があれば理想的である。さらに、訪問後は、ご自宅での洗面所を利用させてもらい、しっかりと手洗いをして次に向かうことを徹底する。
  • 訪問の車、あるいは訪問カバンなどに、予備のマスク・手袋、接触飛沫感染対応の防護具(ガウン・ゴーグル)および感染者用物品(聴診器、血圧計、体温計など)を可能なら常に準備をしておく
  • 再利用物品は消毒するか、一週間手を触れずに保管した後に利用する。

1−2.症状のある方への訪問

  • 単に在宅療養者が発熱しているだけでは、ここでは感染疑いと定義されないため、ケア提供者も過剰に恐れずにケアに当たるべき。ただし当然リスクはあるため予防策を徹底して行う。
  • 発熱や感冒症状を認める場合は、花粉症や感冒、他の感染症(誤嚥性肺炎や尿路感染症)か、新型コロナウイルス感染症なのか、鑑別のためにも通常の感染予防対策を十分に講じながら継続的なモニタリングが必要である。
  • 新型コロナウイルス感染症の感染確定例および疑い例には、飛沫予防策と接触予防策を標準予防策に追加して行う。新型コロナウイルスは気道分泌物および糞便から分離され、対策のポイントは以下の 2 点。詳細は後述
    • ウイルスを含む飛沫が目、鼻、口の粘膜に付着するのを防ぐ。
    • ウイルスが付着した手で目、鼻、口の粘膜と接触するのを防ぐ。
  • 患者・家族に一日2回(適宜増減)のセルフチェックを指示する。
  • 原則1日2回(適宜増減)、電話等にて健康状態を確認する。
出典: 一般社団法人日本環境感染学会「医療機関における新型コロナウイルス感染症への対応ガイド 第 2 版改訂版(ver.2.1)」

2.濃厚接触者、感染疑い者、陽性確定の利用者へ訪問をする場合の対応

2−1.既存利用者の陽性者への訪問の継続判断基準

  • 保健所、主治医、ケアマネジャー、家族と連絡と連携、在宅隔離としてケアを継続する必要があるかの判断をする。アセスメント上、生命や生活に直結しない訪問であることや、家族利用者と相談の上で、訪問頻度を減らすことや、電話での対応をしていくことも考慮する。その上でケアが必要である場合は訪問を継続していく。
  • 生命や生活に直結する訪問で、入院せず在宅隔離として対応していく場合は、訪問継続が必要。
  • 自宅待機ではなく、個別施設・ホテルなどへ隔離され、ケアが継続して必要な利用者についてはどうすべきか(エリアの範囲、訪問看護として提供が可能かどうか、その他のケア提供者へ引き継ぐのか)は、現時点では判断が難しいため、保険者・保健所など確認連携して対応に当たる。
  • 体調悪化時の訪問は再開するか、保健所へ判断を求め連携して対応を行う。
  • 不急として訪問を一時的に行わない場合、電話フォローを必要十分に行う。電話フォローに切り替えた場合、対応実績の確認が必要になる可能性もある為、電話訪問について都度記録に残しておくことが望ましい。
  • 体調悪化時の訪問は再開するか、保健所へ判断を求め連携して対応を行う。

2−2.訪問看護師と家族における対応

環境整備と同居者への指導

  • 同居者に健康観察期間中において、咳エチケットと手洗いを徹底するように保健所もしくは看護師どちらかが指導し(だれが指導するのかを決める)、常に健康状態に注意を払うように伝える。不要不急の外出はできる限り控え、やむをえず移動する際にも、公共交通機関の利用は避けることをお願いする。
  • 外出時や同居者等と接触する際のサージカルマスク着用と手指衛生などの感染予防策を指導する。
  • 同居している者にはサージカルマスクの着用および手指衛生を遵守するように伝える。
  • 利用者自身にもサージカルマスクを着用していただくように伝える。
  • 利用者はできれば個室。同居者や訪問看護師も、必要なケア等以外ではできるだけ1~2m程度の距離を取って健康チェックなどを行う。
  • 同居者が着用しているマスクについて、一度着用したものは、食卓などに放置せず廃棄するようにするが、数が足りない中で難しいこともあるため、環境を汚染しないように工夫して保管する。具体的にはひもをひっかけて吊るして保管。清潔な袋や箱に入れて、密閉しないで保管など。また、マスクを触った後は、必ず手指衛生をすることを指導する。
  • 同居者が発熱または呼吸器症状を呈し医療機関を受診する際には、保健所に連絡の上、受診を勧められた医療機関を受診するように伝える。
  • 廃棄物処理十分に袋を縛って処分、リネン類、衣類等の洗濯は80度以上10分間のお湯につけ置きで対応もしくは0.05%の次亜塩素酸による消毒をするように伝える。
出典:厚生労働省「身のまわりを清潔にしましょう。」
出典:厚生労働省「身のまわりを清潔にしましょう。」
独立行政法人製品評価技術基盤機構 有効と判断された界面活性剤を含む家庭用洗剤など
  • 自宅内では、濃厚接触者と共有する高頻度接触面(ドアノブやリモコン等)の定期的なアルコールまたは次亜塩素酸ナトリウムでの消毒清拭を行うように指導する。
  • 定期摘な換気の徹底も行う。訪問看護やお客さんなどの来客の前には特に換気を行うよう指導する。
  • 利用者から出されるお茶などの飲み物などいただくことは控えるように伝える。
  • 軽症者等と同居家族等の生活空間を必ず分けること。トイレについては、軽症者等が使用する都度、次亜塩素酸ナトリウムやアルコールで清拭する、換気するなどの対応を取れる場合には共用することができる。居住環境関係(個室の確保、サージカルマスクの着用、石鹸による手洗い、リネン・食器・歯ブラシの共用禁止等)、同居者の感染管理関係(特定の人が患者のケアを行う、体液・汚物に触れる際はサージカルマスク、手袋等の実施、接触後に石鹸による手洗い等)、清掃関係(患者が触れるものへの家庭用除菌スプレーによる一日一回以上の清拭等)がある。

出典:厚生労働省「新型コロナウイルス感染症の軽症者等に係る宿泊療養及び自宅療養の対象並びに自治体における対応に向けた準備について」

出典:厚生労働省「軽症者等の療養に関する対象者等の基本的考え方について」

家族への指導に使えるパンフレット等

出典:厚生労働省「ご家族に新型コロナウイルス感染が疑われる場合:家庭内でご注意いただきたいこと〜8つのポイント〜」
出典:佐久市「新型コロナウイルス感染症対策のもとで子どもたちを支えるために」
出典:佐久市「教えて!ドクタープロジェクト:新型コロナウイルスげき退作戦」

2−3.吸引などエアロゾルが発生する可能性のある(=ウイルス曝露の危険性が高い)ケアについて

  • エアロゾルが発生する可能性のある手技(上気道の検体検査、気道吸引、気管内挿管、下気道検体採取、経鼻胃管挿入、気切カニュレ交換等)については、N95 マスク(またはKN95、 DS2 など、それに準ずるマスク)、眼の防護具(ゴーグルまたはフェイスシールド)、長袖ガウン、手袋を装着する。
  • 経鼻胃管挿入や気切カニュレ交換など、訪問看護師が可及的速やかに実施しなければならないものを除いて、家族が実施できる場合には、家族にも協力をお願いしながら、飛沫感染予防対策をした上で出来る限り飛沫を浴びないように注意する。
出典: 一般社団法人日本環境感染学会「医療機関における新型コロナウイルス感染症への対応ガイド 第 2 版改訂版(ver.2.1)」

2−4.訪問の運営手順の変更、具体的な訪問方法

  • 訪問を行う看護師を特定の者へ限定する
  • 以下の看護師は除外するのが望ましい
    • 基礎疾患、特に呼吸器疾患や自己免疫疾患を持つ者
    • 妊娠中の者
    • 50歳以上の者
  • PPE物品を訪問継続できる十分量確保する
  • 訪問ルートの再編。感染者は1日の最後の訪問とする
  • 移動具(自転車や自動車)は、朝と夕にアルコール/次亜塩素酸ナトリウムによる消毒を行う
  • 事務所の高頻度接触面をアルコール/次亜塩素酸ナトリウムによる消毒を行う
  • マスクの着用ルールについて取り決める。
    • 新型コロナウイルス感染や感冒によるではないと断定できる咳嗽をもつ(例:喘息や花粉症)看護師が症状のない利用者宅を訪問する際には、不織布マスク・布マスクを問わず、マスクを交換する必要性はない。
    • 呼吸器症状のある利用者宅を訪問する際には、不織布マスク・布マスクを問わず、マスクを着用し、訪問終了時にマスクを交換する。(ジップロックを持ち歩いて、汚染されたマスクは洗浄できるようにまとめておく。)
    • マスクが安定して供給されるまで、肉眼的汚染のない不潔な布マスクについては、推奨された洗浄方法で洗浄し、乾燥させたのちに繰り返し使用する。肉眼的汚染のない不潔な不織布マスクは、水分に弱いため洗浄はせず、推奨された殺菌方法で消毒し乾燥させた後に再利用する。(注:蒸し器などで10分程度蒸すと良いとか、電子レンジでチンとか色々言われていますが、はっきりと効果が維持できるかどうかはまだまだ議論されているので、根拠をはっきりさせること必要。)肉眼的汚染がある際には破棄する。

感染予防策

  • PPEの着衣はグリーンゾーンで行う。脱衣はグレーゾーンで行う。グレーゾーンにはゴミ袋と手指消毒用のアルコールを準備すること。ゴミ袋は単回廃棄できるようにビニール袋を口を開けた状態で準備すると良い。
  • 訪問カバンと携帯などの端末は家の中には持ち込まない。
  • 接触頻度を減らすため、フィジカルアセスメントは必要最低限とする。原則的に体温、呼吸回数と脈、血圧、意識状態を充分に観察し重症度を判定する。パスルオキシメーターも活用するが消毒を行うよう気を付ける。
  • 血圧計、体温計が自宅にあるので有ればそれを使用する。なければ患者専用のものを準備する。

PPEが十分にある場合(かつ着脱手技が適切に行われる場合)

  • 事務所への立ち寄りも良しとするかは事業所判断。
  • 移動具(車、自転車)の共有は許容される。
  • 事務所内も高頻度接触面をアルコール清拭する。
  • 当該利用者以外の訪問については、十分にPPE防御している前提では可能だが、事業所判断部分とする。

PPEが不十分な場合(着脱手技に不安のある場合を含む)

ゾーニングの具体的な手順

  • 訪問者(看護師、ホームヘルパーなど)のゾーニングは玄関より外をグリーン。玄関から3mをグレー。それ以降はレッドゾーンを目安とし、各家庭の状況に合わせて行う。ゾーニングを視覚的に理解するために、床にビニールテープを貼ること。(※玄関はそれ自体が目印になるので不要。)
  • ゾーニングはすべての訪問者で共有。
  • 患者・家族にもゾーニングについて助言すること。例えば可能な限り患者は隔離すること、トイレや清潔ケアの場所は可能な限り共有しない。
  • 家族介護者は最小人数とすること。
  • 家族に環境整備や標準予防策について助言すること。例えば高頻度接触面の消毒や、接触時のマスク、手袋の着用、手指衛生など。高頻度接触面の消毒が困難なのであればケアプランにいれることも検討する。
  • ゴーグルは複数回使用とするためグレーゾーンでアルコール清拭し、ポストなどに入れさせてもらう。
  • 注:居宅環境でのゾーニングに関する参考文献がないため有志による議論にて記述。上記は随時修正や改訂を行う前提の記載を踏まえる。

廃棄物

  • ビニール袋に入れて包み、次亜塩素酸ナトリウムを入れるなど対応が必要と考えられるが、ウイルスが含まれるとなると医療廃棄物になる。廃棄物の処理方法については地域差がある可能性があるため、行政(保健所)へ確認の上で処理を行う。

期間

  • 該当利用者の訪問が終わるまでは継続する。該当職員は14日間の自己サーベイランスをおよび常にマスクをつけ手指消毒や手洗いを継続する。

利用者の体調悪化時

  • 可能ならば訪問前に主治医および保健所に報告し、医師・保健所の判断で病院への搬送を検討する。
  • ACPに基づいた積極的治療を望まない場合は、保健所、主治医、保険者と十分に連携をとり判断を仰ぐ。

職員の症状の出現

  • 職員について、勤務中であっても症状を認めた時点で、必ず休ませる。感染が流行している中で 発熱が4日以上続く(基礎疾患がある人は2日程度)場合は、最寄りの保健所や電話相談窓口に相談して指示に従うこと。

2−5.小児・医療的ケア児の対応

3.感染疑いのある職員(やその同居家族)が出た場合の対応

3−1.基本的な対応

  • 職員は、毎朝の検温と症状確認を行う。軽微であっても発熱や咳などの症状があれば休ませる。勤務中であっても症状を認めた時点で、必ず休ませる。感染が流行している中で 発熱が4日以上続く(基礎疾患がある人は2日程度)場合は、最寄りの保健所や電話相談窓口に相談して指示に従うこと。

3−2.感染疑いの場合

  • 職員が、濃厚接触感染疑い、または下表の曝露リスクが「中リスク」以上であることが判明したときは、最後に曝露した日(同居する家族であれば、その家族の症状を最後に認めた日)から14 日間の就業制限が求められる。

3−3.職員の同居する家族の発熱の場合

  • 一方、同居する家族に症状を認めていても、新型コロナウイルス感染症と診断されていなければ、当該職員に就業制限をかける必要はない。ただし、新型コロナウイルス感染症ではないと言い切れるものではなく、最後に曝露した日(同居する家族の症状を最後に認めた日)から 14 日間を観察期間とする。この期間、職員はサージカルマスクを必ず着用し、手指衛生も心がけながら業務にあたらせる。そして、勤務中でも症状を認めた場合には、すぐに業務から外れなければならない。

出典:沖縄県立中部病院感染症内科「高齢者施設における新型コロナウイルス感染症への対策(3)地域での流行が発生しており、患者への入院勧告が行われない状況

3−4.業務停止後の復帰

  • 発熱や風邪症状を認める者の職場復帰について下記(リンク先資料の6ページ)などが参考になる。
出典:日本渡航医学会産業保健委員会/日本産業衛生学会海外勤務健康管理研究会「新型コロナウイルス情報企業と個人に求められる対策」

3−5.職場復帰後に実施/制限すべきこと

  • すべての症状が完全に寛解するまで、または発症後14日目までのいずれか長い方の期間、事業所や利用者宅にいる間は常にマスク着用を実施する。
  • 発症後14日目までは、重度の免疫不全患者(移植、血液腫瘍科など)との接触を制限する。
  • 手指衛生、咳エチケットを遵守する(例:咳やくしゃみをするときは鼻と口を覆う、ティッシュはゴミ箱に捨てる)。
  • 自身で症状を観察し、呼吸器症状が再発または悪化した場合は、保健所に評価を求める。

参考:米国CDC「COVID-19と診断された、または疑われる医療従事者の復職基準」翻訳資料

3−6.従業者休業に関する補償

  • プライベートで感染し休業している職員は、その職員が社会保険の被保険者であれば健康保険の傷病手当金が利用できる。業務または通勤に起因して発症したものであると認められる場合には、労災保険の給付の対象となる。
  • 「調査により感染経路が特定されなくとも、業務により感染した蓋然性が高く、業務に起因したものと認められる場合には、これに該当するものとして、労災保険給付の対象とす ること。」(引用:厚生労働省「新型コロナウイルス感染症の労災補償における取扱いについて」

3−7.危機時の人員不足緩和対策

  • 人員不足により、上記のような推奨アプローチを実行できない場合を想定して、あらかじめ訪問数を最小化すること、近隣の事業所と協議をしておくことなどが有用と思われる。

4.職員に感染者が出た場合の職員及び利用者・家族への対応

4−1.濃厚接触者の特定(利用者・職員)

  • 濃厚接触に該当する利用者および職員を同定する。
  • 濃厚接触者の症状出現の有無を確認する。

4−2.濃厚接触者である職員への対応

  • 濃厚接触の定義もしくは、曝露リスク表の中リスク以上の場合は、最後に曝露した日(同居する家族であれば、その家族の症状を最後に認めた日)から14 日間の就業制限が求められる。
  • 上記に該当しない場合は就業を継続とする。

4−3.濃厚接触者である利用者・家族への対応

  • 利用者・家族が濃厚接触者として判断される場合、報告をし、2−2に示した家庭内の対応を依頼する。
  • 症状の経過観察を行い、症状出現があれば保健所に連絡し連携して対応を行う。

5.既存利用者ではない陽性者の在宅療養への対応

5−1.依頼を受けた時の引き受けの判断基準

  • 社会的な受け皿として、引き受けしていく必要はある。
  • 軽症者だけではなく、重症者や看取りも含めた対応が余儀無くされる可能性を考慮する。

5−2.訪問の運営手順の変更、具体的な訪問方法

6.感染者への在宅緩和ケアを見据えた留意事項について

6−1.ACPに基づいて(症状の有無によらず)積極的治療や受診を希望しない場合の基本的な考え方

  • 現在は、まん延防止の観点から陽性者は感染症法の規定に基づく入院の対象となっている。
  • しかし、入院治療が必要ない軽症者や無症状の陽性者は自宅療養へと方針が変化していくことが考えられ、その場合は電話による健康状態の把握は継続する。
  • 急激な状態悪化のリスクはあるため、疾患・年齢に限らずACPの視点をもった関わり/話し合いが望まれる。
  • 病床以外に感染者のための隔離・療養場所が確保されている場合には、保健所等と連携しながら対応する。
  • 船橋市の障害福祉施設の事例では軽症者・無症状者は施設に留めて対応していたことを踏まえると、11−3.地域で流行しており、患者への入院勧告が行われない状況においては、在宅療養中の者についても在宅環境をそのまま隔離環境として考慮していくことが求められる可能性がある。
  • (ACPに基づき)積極的治療を望まない重症例においては、保健所・主治医らと連携し、倫理的配慮・権利擁護の観点も踏まえながら、療養場所の選択および緩和ケア・看取り対応について個別に(感染症法も踏まえて)協議していく。

6−2.ACPについて

  • 本人家族の意向を尊重し、在宅ケアの継続が妥当であるか開始前に充分に吟味すること。
  • 全てのケアプロバイダーが意思決定に参加できなくてもプロセスを共有すること。
  • ジョンセンの4分割法などを用いて倫理原則の葛藤についてチーム内で共有すること。
  • 介入スタッフの懸念について言語化し共有したり、感情の表出を助けあうこと。

6−3.ケアプラン

  • 訪問はしないか必要最低限とし、可能なかぎり電話対応や緊急対応のみ行う。
  • 接触の頻度、PPEの着脱回数を減らすために可能なかぎり1回の訪問ですべてを遂行するよう計画すること。例えばヘルパーと同時刻に介入することもスタンダードプリコーションの教育効果、効率性の観点などから検討すること。
  • 訪問は可能なかぎり最後に回すこと。

6−4.緩和ケア

  • 適応患者は積極的な治療を希望しないことが想定され、呼吸困難感や苦痛にすみやかに対処すること。
  • 急激な転機たどることも想定して事前に主治医にコンフォートセットオーダーをもらっておくこと。
  • 主治医と連携をとりながら実施し、場合によっては鎮静についても考慮すること。
  • 主治医と連携をとりながら治療が可能なものについては患者や家族に説明し意向を尊重しながら治療を支援すること。

6−5.連携

  • 訪問中における外部との連携は自宅の電話を利用すること。
  • 連携に備えて紙媒体での患者情報や地域資源などが記載された患者情報シートを患者宅に準備しておくこと。

6−6.死亡後の対応

6−7.その他

  • これら留意事項は無症状もしくは軽症の時期からの適応とし、重症化や看取り前から備えること。

7.従事者のメンタルケア

  • 感染症への対応を行う医療従事者のストレスは高度であり、かつ慢性的に続く。そのため組織や地域でのサポートが必要である。
  • スタッフ自身は、自身のメンタルヘルスの異常に気付いたら早めに管理者と相談する
  • 管理者は、メンタルヘルスの異常を自覚・他覚するスタッフへの相談窓口を設置し、適宜産業医等との面談を実施する

8.利用者の不安への対処

  • 報道の影響もあり、各地において利用者側からの不安に伴う訪問中止依頼がある。アセスメントの結果、当面訪問頻度を減らすなどの対応をとる場合もあるが、緊急時訪問看護加算の対象となっている利用者も含まれる。特に認知症夫婦世帯等において説明が難しく、ケアマネジャーなど多職種で対応しても協力が得られにくい場合がある。また精神的に不安定になりつつある利用者への対応が増え、精神科訪問看護では電話訪問に切り替えていく利用者が増えている。利用者を不安にさせずに、必要なケアを継続していくコミュニケーションを意識することが求められる。
  • 参考:新型コロナウイルス用:VitalTalk コミュニケーション・アドバイス

9.報酬算定について

  • 新型コロナウイルス感染症に関連して、以下のような算定が可能となっている。詳しい要件などについては、日本訪問看護財団「【第5報】 新型コロナウイルス感染者(疑われる者含む)への訪問看護に特別管理加算、利用者の同意等による電話対応に報酬算定」などを参照すること。
    • 医療保険:新型コロナウイルス感染症の利用者(疑いを含む)に対応する場合に訪問看護療養費の特別管理加算を算定できる。
    • 医療保険:利用者の要望等により訪問看護が実施できなかった際、代わりに電話等で病状確認や療養指導等を行った場合に、利用者の同意があれば、訪問看護管理療養費のみ算定することができる。
    • 介護保険:利用者の要望等により訪問看護が実施できなかった際、代わりに電話等で病状確認や療養指導等を行った場合に、利用者の同意があれば、20分未満の訪問看護費を算定することができる。
出典:日本訪問看護財団「【第5報】 新型コロナウイルス感染者(疑われる者含む)への訪問看護に特別管理加算、利用者の同意等による電話対応に報酬算定」

10.相談窓口など

11.参考:地域における流行期の考え方

11−1.地域での発生を認めていない状況

  • 地域で感染者の報告はあるが、いずれも渡航歴や接触歴のある患者であって、流行状況は限定的であると考えられる状況。十分な警戒が必要だが、厳格な制限は求めない。職員の健康管理が重要。何らかの経路でウイルスが持ち込まれ、施設内での集団発生が引き起こされる可能性があることを前提とし、症状のある利用者への対応については強化する。また、感染防護具が不足する状況が続くことも考えられるため、アイゴーグル、マスク、ガウン、手袋について、必要な交換頻度と手に入らない場合の代用手段を使う。

出典:沖縄県立中部病院感染症内科「高齢者施設における新型コロナウイルス感染症への対策(1)地域での発生を認めていない状況」

11−2.地域で発生しており、患者への入院勧告が行われている状況

  • 渡航歴や接触歴のない患者の報告が増加しており、地域での流行が始まっていると考えられる状況。この段階では、ウイルスが持ち込まれないように厳格な対策をとる必要がある。すなわち、原則として集合禁止とし、納入業者による物品の搬入なども玄関先で行う。施設職員は常にマスク着用として、症状確認を徹底する。利用者や家族にもサージカルマスクを着用し手指衛生を心がけることを求める。

出典:沖縄県立中部病院感染症内科「高齢者施設における新型コロナウイルス感染症への対策(2)地域で発生しており、患者への入院勧告が行われている状況

11−3.地域で流行しており、患者への入院勧告が行われない状況

  • 地域における感染拡大が進んでいる状況。この段階では利用者に感染が確認されたとしても、軽症であれば入院措置とはならず、在宅において療養継続となる可能性がある。またすべての疑われる患者に対してはPCR検査が実施されなくなることも考えられる。誰が感染しているか分からなくなっていることを前提に、利用者を守っていく。

出典:沖縄県立中部病院感染症内科「高齢者施設における新型コロナウイルス感染症への対策(3)地域での流行が発生しており、患者への入院勧告が行われない状況

12.資料

13.更新履歴

  • 2020年5月31日 プライマリ・ケア連合学会の手引きから、「1−1 症状のない方への訪問」に予備物品・物品の再利用について追記、「1−2 症状のある方への訪問」に家族患者のセルフチェック・電話確認について追記、「2−3 吸引などエアロゾルが発生する可能性のある(=ウイルス曝露の危険性が高い)ケアについて」のPPE対応表を更新(エアロゾル発生手技はN95を可能なら着用へ変更)、「2−4 訪問の運営手順の変更、具体的な訪問方法」の陽性対応職員の対象外に50才以上の者を追記とパルスオキシメーターの利用推奨へ変更、「7 従業者のメンタルケア」に従業員および管理者の行動について追記
  • 2020年5月24日 2−2 有効と判断された界面活性剤を含む家庭用洗剤について追記
  • 2020年5月7日 見出し番号の整理(追加、削除、並べ替え)、リンクなどレイアウト全般の調整、重複して記載のあるコンテンツの削除
  • 2020年5月1日 「PPE防御の判断基準(参考)」表の一部修正(N95等を使用する場面の修正、手袋項目を追加)、「9.covid-19に関連した報酬算定」を目次追加、「10.相談窓口など」を目次追加、「2−7従業員休業に関する保障」に労災補償に関する取り扱いを追記
  • 2020年4月25日 「PPE防御の判断基準(参考)」表の一部修正(症状のないリスク場面以外の、利用者マスクおよびディスポエプロンについて推奨を追加)、「1−5 訪問の運営手順の変更、具体的な訪問方法」のうち「PPEの例外的取り扱い(再利用)」「廃棄物」について追記
  • 2020年4月24日 体裁の全体修正、旧目次項目3「利用者・家族に陽性が確定している場合の訪問対応」は、目次項目1と同じ対応が必要であるため1へ統合、目次項目番号振りを全て修正
  • 2020年4月24日 みんなのかかりつけ訪問看護ステーション感染管理認定看護師によるフィードバックにて以下修正:「濃厚接触」定義、「感染疑い」定義の追記修正、CDC「暴露リスク表」を日本環境感染学会ガイドのものへ修正し接触時間等を追記、「訪問看護師の基本的態度」について表現および内容の追記修正、1−1 家族指導について追記、リネン等の扱いについて追記、環境消毒、次亜塩素酸ナトリウム作成方法について図追記、1−1 吸引など飛沫に関わるケアがある利用者への訪問:追記修正、表の再掲、PPE着脱図の挿入
  • 2020年4月23日 日本看護協会感染管理認定看護師によるフィードバックにて以下修正:1−1 訪問看護師と家族における対応:家族のマスクの取り扱いについて追記、リネンの消毒について追記、2−1、2−2 4日以上の発熱者について記載修正、9 日本看護協会の相談窓口が、4月20日に総合相談窓口として、感染管理、働き方、メンタルヘルス、その他のカテゴリーで窓口統合されたこと
  • 2020年4月22日「本ガイドの位置付け」に免責事項を追記
  • 2020年4月21日「2−4 業務停止後の復帰」の条件について一部削除し、”新型コロナウイルス情報企業と個人に求められる対策,日本渡航医学会 産業保健委員会日本産業衛生学会 海外勤務健康管理研究会2020年4月20日作成”より新たな情報として修正追記
  • 2020年4月21日「濃厚接触の定義」変更について、”新型コロナウィルス感染症患者に対する積極的疫学調査実施要領,国立感染症研究所 感染症疫学センター,令和2年4月20日版”より追記
  • 2020年4月21日PPE防御の判断基準(参考)の表を本ガイド作成有志により2020.4.21作成し追記/在宅療養児介護者のCOVID-19感染判明時等の支援について,公益社団法人日本小児科学会HPのリンクを追記/軽症の新型コロナウイルス(COVID-19)患者の在宅ケアと接触者の管理,WHO のリンクを追記/COVID-19 陽性または疑いの患児への看護ケアの手引き,ヨーロッパ小児・新生児集中治療学会(ESPNIC)のリンクを追記
  • 2020年4月7日「9 在宅ケアをうけている利用者がCOVID19に感染し重症化した場合の在宅緩和ケアを見据えた介入の留意事項について(案)」 を追記。
  • 2020年4月6日「冒頭」に”緊急事態宣言のとき、訪問看護師は看護を続けていいの?”の記事リンクを追記
  • 2020年4月6日「1−1 感染の疑いがある利用者へ訪問をする場合の対応-訪問看護師と家族の対応」へ ”新型コロナウイルス感染症の軽症者等に係る宿泊療養及び自宅療養の対象並びに自治体における対応に向けた準備について” ”新型コロナウイルス感染症患者が自宅療養を行う場合の患者へのフォローアップ及び自宅療養時の感染管理対策について” から引用参考し追記
  • 2020年4月5日「2−7 従業者休業に関する保障」を追記。また「◆その他資料」に、”コロナウイルス 帰国者・接触者相談センター” ”厚生労働省 新型コロナウイルス感染症ページ” ”経済産業省 新型コロナウイルス感染症ページ” のリンクを追記
  • 2020年4月4日「7 従業者のメンタルケア」に、”新型コロナウイルス感染症対応に従事されている方のこころの健康を維持するために,日本赤十字社”のリンクを追記
  • 2020年4月3日「◆その他資料」に、”全国訪問看護事業協会の新型コロナウィルス感染対策特設ページ”、”日本訪問看護財団 新型コロナウィルス感染症のお知らせページ” のリンクを追記
  • 2020年4月3日「◆その他資料」日本看護協会より感染管理認定看護師や感染症看護専門看護師が在籍していない病院、施設などの看護職の相談窓口(日本看護協会) のリンクを追記
  • 2020年4月3日 ガイド(案)公表

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